ペルシャ猫を誰も知らない

久しぶりに劇場まで足を運んで「ペルシャ猫を誰も知らない」を鑑賞。

言論統制の厳しいイラン当局の目を潜り抜け、自分たちの音楽を追求する若者たちの物語。釈放されたばかりの青年と少女、アシュランとネガルはロックをやりたいがために海外脱出を試みる。彼らの才能に惚れたナデルは、彼らのためにパスポートとビザを手配し最後のコンサートを開くために奔走する。

この映画の凄いのは、ほとんどが実話に基づいていて、ナデル役以外は本当のミュージシャン達。そして、アシュランとネガルは撮影終了の4時間後、映画さながら本当に海外へ脱出。

ハリウッド映画にありがちなジェットコースター的展開は無いが、抑圧された状況でも音楽を続ける若者たちの日常がスクリーンから滲み出ていて、まるで自分もその場にいるような感覚。物語も笑いあり涙ありで最後までスクリーンに釘付け。ずっと昔に読んだ永野護の「FOOL for THE CITY」を思い出す。

違法パスポートやビザを扱う映画好きなおじいさん達との会話に出てくるアル・パチーノやニコラス・ケイジ。牛小屋でヘビメタ、メンバーの一人は肝炎で病院行き。警察に捕まったナデルの口八丁手八丁。車に犬を乗せていただけで警察に停止させられるアシュランとネガル。ぼかしの入った女性歌手。ひとつ一つの場面がとても印象的。

特に、曲作りに煮詰まったネガルを高速を流して気分転換に誘うアシュランのシーン。気分転換に高速に乗る、イランの人たちも一緒なんだと嬉しい共感。イランにも高速があることを知って驚いたが、映画に出てくるテヘランの街並みはイメージしていたものよりずっと洗練されたもの。

ナデルが乗り回すバイクにも注目。SVチックなテール・ランプからSuzukiだと思うが、車種までは特定できず。ノーヘルで三人乗りに違和感が無かったのが不思議でたまらない。そのバイクもコンサートを成功させるために売り払ったナデル、まさに漢。そんな彼の努力の下で迎える衝撃の結末。

何よりも全編に流れるイラン発の音楽は、インディ・ロックからメタルにブルースやラップまで本当に多彩。既成概念や体制への批判から始まったロック。今の日本では廃れた感じもあって語るのは少し気恥ずかしいが、今のイランで力強く脈打つその真髄。長いこと求めていた荒削りで心揺さぶるロック、ここに健在。

アシュランとネガルは現在、「TAKE IT EASY HOSPITAL」というユニットでヨーロッパで活躍中。何といってもネガルが「どストライク」なんですが。


ビートルズを彷彿させる「The Yellow Dogs」もイランを離れて現在はブルックリンへ。ビルの上の秘密基地で奏でられる「New Century」の堪らない疾走感。

 

そして今回、一番の衝撃を受けたのが「Hichkas」。腹の底まで響いてくる重厚な「Ekhtelaaf」は、ペルシャ語がこんなにもラップに合うことを知らしめてくれた貴重な一曲。他にも「Bunch of Soldiers」がお薦め。

最後になったが、監督はイラン出身のクルド人バフマン・ゴバティ。数々のインタビュー記事で紹介されているように、17日間でゲリラ撮影を強行。アンダーグラウンドで自由な音楽を渇望する若者たち(=ペルシャ猫)を、身の危険と隣合わせで活き活きと描くその姿勢に感服。この映画撮影のためにイランに戻ることができず、現在はイラクに滞在中。イラクも十分に危険だと思うのですが。

ちなみに婚約者はロクサナ・サベリ。日系アメリカ人の母とイラン系アメリカ人の父を持つジャーナリスト。彼女の事件もまた、記憶に新しい。二人揃ってタフなお方たちです。

「いつだって、音楽は自由への翼なんだ」

パンフレットのフレーズ、こんなにも心に響いたのは久しぶり。

 

関連:

映画「ペルシャ猫を誰も知らない」公式サイト

010:バフマン・ゴバディさん(『ペルシャ猫を誰も知らない』監督)/Realtokyo

ペルシャ猫を誰も知らない/東京美術通信

Banned in Iran: Take It Easy Hospital (2010/03/20 guardian)

Before Us There Was No One Else – An Interview with Soroush Lashkari/ZIRZAMIN

「映画祭後、何度も拘束された」来日断念のゴバディ監督 (2010/07/19 朝日)

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ペルシャ猫を誰も知らない 統制下、自由な音楽求めて (2010/08/06 日経)

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